理事長挨拶

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多分野からの日本テスト学会への参加を希望する

柳井晴夫(日本テスト学会理事長)

20世紀におけるわが国の大学入試がモデルとしたものに米国のSATがある。SATをモデルとして導入された「進学適性検査」が1948年から1954年にかけて実施され、続いて1963年から1968年まで能力開発研究所による能研テストが実施された。その後しばらく経過した1979年に共通第1次学力試験が開始された。共通第1次学力試験開始とともに大学入試センター研究部が発足し(1987年に研究開発部と改称)、1981年から研究紀要が発行された。共通第1次学力試験は1989年まで続き、1990年から大学入試センター試験に引き継がれ、現在に至っていることは周知であろう。

この他、医師、看護師、薬剤師などになるための各種国家試験、卒業時の一般学力の有無を診断する各種公務員試験などが行われ、その結果の分析等については、日本教育心理学会、日本心理学会、日本教育工学会、日本行動計量学会、日本医学教育学会、生物統計学会、情報処理学会といった広範囲な分野の学会で発表されていたが、各種試験問題の信頼性や妥当性、また異なった年次における問題の難易度の比較などは必ずしも十分に行われていたとは言いがたい。

ところで20世紀後半から21世紀にかけて著しく進展したIT時代の到来は、これまでペーパーテストのみに限定されていたテストをコンピュータの利用を前提にしたテスト(CBT)へ変換することを可能にした。テスト結果が受験時期、受験場所の影響を受けにくく、いつでも、どこでも、受験可能であるという新しいテストの考え方を生み、新しい評価技術が実用化された。その意味で、全国の医歯学系大学において、4年次(基礎課程修了)から5年次(臨床課程開始)へ進級する際に十分な知識を身につけているかを調べるために、2006年から導入された医療系大学間共用試験は、わが国におけるCBTの嚆矢(こうし)ともいうべきもので、その成否は今後のわが国におけるCBTのより一層の普及の鍵を握るものといっても過言ではない。このような情勢の中、2009年9月に開催された米国ETSのElliott Bennett博士によるシンポジウムは、全米教育統計センター(NCES)による学力進捗度調査(NAEP)の一つとして、博士の携わってこられた数学・作文能力のオンラインテストおよび従来の方法と新しいテクノロジーを利用した課題解決力の測定に見られる違いなど、これまでの能力測定の改善と新しい能力測定に向けてのコンピュータ利用についてご講演いただいたもので、今後のわが国におけるテスト技術の発展に資するタイムリーな企画であったといえよう。

ところで、日本テスト学会は、科学的根拠に裏付けられたテスト法と評価技術の研究・開発と普及の促進、「テスト」および「評価」を取り巻く諸問題に対する社会的コンセンサスの構築、国内外の評価技術関連情報の収集・提供を目的に2003年5月23日に設立された学会である。2003年10月に第1回の年次大会を東京大学駒場キャンパスで開催したのを皮切りに、2004年以降、年1回のペースで大会を開催している。

日本テスト学会は1960年代からテストに関する多数の著作を著し、米国における最新のテスト研究成果をわが国に取り入れた池田央初代理事長の尽力によって設立されたもので、設立時の2003年5月から2008年の8月の第6回大会(於成蹊大学)終了時まで、5年3ヶ月の長期にわたり池田氏が初代理事長を務め上げられた。その後、筆者が理事長の職を引き継がせて頂いた次第である。

池田理事長の時代には、前述したように6回の年次大会が開催された。大会以外には、毎年、いくつかのシンポジウムおよび学会誌の発行が行われた。学会誌には当時からテスト理論およびその応用に関して、水準の高い論文が掲載されている。また、日本テスト学会による出版活動も始まっている。まず、多くの日本テスト学会のメンバーによる2年間という長期間にわたる真摯な努力が結実し、2007年7月に「日本版テストスタンダード」が刊行されたことは特記すべき点である。つづいて、全国学力テストのような大規模テストの実施に対する社会的要請にみあうように、先進テスト技術のわかりやすい紹介と解説をかねた小冊子「見直そう、テストを支える基本の技術と教育」が2010年4月に出版された。

さらに、2007年大会から毎年、テスト学会賞、論文賞、大会発表賞を設け、これまで、一見地味な活動とみなされていた各分野におけるテストに関する研究活動において、今後の進展が期待され、推薦・評価にふさわしいと認められた研究発表を表彰する制度を設けた。学会員の皆様におかれては、研究発表や講演により一層積極的に参加いただくことを願っている。

ところで、テスト理論およびテスト理論にもとづく研究は、教育測定学、心理測定学を学んだ研究者が行うものという暗黙の了解があるように思われるが、この考え方は正しくない。実際、米国やオランダで一流の心理測定学の研究を行っている人の出身学部・学科をみると、心理学、教育学部出身者は数多くはない。数学、物理学、化学、生物学といった理学系出身者、さらには情報工学、機械工学、電気工学、建築工学といった工学系出身者が少なくない。計量心理学の分野で最も古くから広まっている多因子モデルの創始者サーストンは工学系の出身であり、ガットマンの尺度解析で著名なガットマンは物理学者である。

筆者が長く勤務した大学入試センター研究開発部の出身者には、教育学部、文学部よりも理工学系出身者の方が多かったといえよう。理工学系出身者だけでなく、生物測定学(Biometrics)、計量経済学(Econometrics)、計量言語学、計量法律学者等、それぞれの分野における能力測定に関するテストの開発研究に携わる基礎能力を持っている研究者も、テスト学会に加入して頂きたいものである。

今後、年次大会、セミナー、ワークショップ等を通じてテストの評価技術に関する研究交流および普及啓蒙活動を行うとともに、テスト評価技術に関するよりきめの細かいガイドラインの作成や標準化活動支援等に積極的に取り組んでいきたい。

(2010年8月記)